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移動平均線はSMAとEMAどちらを使うべきか:672通り実測

単純移動平均(SMA)と指数移動平均(EMA)を、同じ期間・同じ時間足で672通り総当たりしました。EMAが勝ったのは318通りで47.32%。重心が同じ理由、SMAだけが持つ性質、EMAが起動時の本数で変わる問題まで実測値で載せています。

移動平均線を引くとき、単純移動平均(SMA)と指数移動平均(EMA)のどちらを選ぶかで迷ったことがあると思います。「EMAのほうが反応が速いから短期向き」「SMAのほうが素直だから長期向き」。どちらもよく見かける説明ですが、実測値が添えられていることはほとんどありません。

そこで、同じ期間・同じ時間足のまま、種類だけを入れ替えた672通りをひとつずつバックテストしました。短期8種と長期8種の組み合わせ56通りを、15分足・1時間足・4時間足の3つと、2024年・2025年・2025年前半・2025年後半の4区分で回し、SMAとEMAを1対1で突き合わせています。

先に結論です。EMAの損益が上回ったのは672通り中318通り、47.32%でした。 引き分けはありません。12の区分に分けても、EMAが勝った数は56通り中15〜39のあいだに収まり、どの区分でも片方がもう片方を引き離しませんでした。

014284256M15 2025年29M15 2024年26M15 2025年前半31M15 2025年後半20H1 2025年26H1 2024年32H1 2025年前半39H1 2025年後半15H4 2025年22H4 2024年35H4 2025年前半27H4 2025年後半16
EMAのほうが損益が良かった通り数28通り=引き分けの位置ドル円・1区分あたり56通りの期間の組み合わせ
時間足と期間を変えて12区分。どの区分でも、片方がもう片方を引き離しませんでした。

ただし「どちらでも同じ」という意味ではありません。同じ期間のまま種類を入れ替えると損益は中央値で491.1pips動きます。大きく動くのに、どちらへ動くかは事前に決まらない。 これがこの検証でいちばんはっきり出た形です。

以下、なぜそうなるのかを線そのものの性質から順に見ていきます。SMAにあってEMAにない性質と、EMAにあってSMAにない性質が1つずつ見つかりました。

SMAとEMAは、何が違って何が同じか

どちらも「直近の価格をならした線」ですが、ならし方が違います。

  • 単純移動平均(SMA):直近n本の終値を足してnで割る。n本すべてに同じ重みが掛かり、n本より前は一切見ない
  • 指数移動平均(EMA):新しい足ほど重く、古い足ほど軽く見る。重みは1本古くなるごとに一定の比率で小さくなり、ゼロにはならない

言葉で書くとこれだけですが、実際にどの足がどれだけ効いているかは測れます。全部の終値を同じ値にした系列を作り、1本だけを1円だけ上げて線を計算すると、出てきた差がそのままその足の重みになります。期間20で測った結果が次の図です。

0%2%4%6%8%10%9.5010203040何本前の足か
単純(SMA 20)指数(EMA 20)重心(どちらも9.5本前)縦軸=その足に掛かる重み(%)、横軸=何本前の足か
指数移動平均は今日の足を2倍近く重く見て、そのかわり過去を読み終わりません。重心は2本とも同じ足の上にあります。
期間直近の足の重み(SMA)直近の足の重み(EMA)重心(SMA)重心(EMA)EMAが期間内に置く重みEMAが読む長さ
1010%18.182%1.818倍4.5本前4.5本前86.56%69本
205%9.524%1.905倍9.5本前9.5本前86.49%139本
254%7.692%1.923倍12本前12本前86.48%173本
502%3.922%1.961倍24.5本前24.5本前86.47%346本
2000.5%0.995%1.99倍99.5本前99.5本前86.47%1,382本

(「EMAが読む長さ」は、重みが直近の足の100万分の1より大きい足の本数)

ここに、この記事のいちばん地味で、いちばん効く事実があります。重心はどの期間でも完全に一致します。 期間nのSMAもEMAも、重みの重心は (n−1)÷2 本前です。期間20なら両方とも9.5本前、期間200なら両方とも99.5本前。7つの期間すべてで小数点以下まで一致しました。

つまり、EMAはSMAより「新しい情報を見ている」わけではありません。 重みの平均的な古さは同じで、配り方だけが違います。EMAは直近の足を約2倍重く見て、そのかわり期間の外側にも重みを残します。期間20のEMAが20本以内に置いている重みは86.49%で、残りの13.51%は21本前より古い足に散っています。この86%台という数字は期間を変えてもほとんど動きません(86.47〜86.83%)。

「EMAは期間20でも実質もっと長い期間を見ている」という言い方と、「EMAのほうが速い」という言い方は、両方とも同じ重み配分の別々の側面を指しています。片方だけを取り出すと結論が反対になります。

「EMAは反応が速い」を数字にすると

重心が同じなら、速さの違いはどこに出るのでしょうか。3つの測り方で確かめました。

1つ目は、線が終値からどれだけ離れたところを通るかです。ドル円の1時間足・2025年で測った平均距離です。

期間SMAの平均距離EMAの平均距離
513.81pips11.34pips0.8214
1022.11pips18.63pips0.8428
2033.55pips28.46pips0.8483
2538.08pips32.34pips0.8493
5055.10pips46.68pips0.8472
20097.66pips85.62pips0.8767

EMAのほうが価格に近いところを通ります。 時間足3つ・年2つ・期間7つの42区分すべてで近く、比は0.8126〜0.8937に収まりました。期間や時間足を変えても、だいたい85%前後です。これが「速い」の実体のひとつです。

2つ目は、2本の線がクロスする回数です。同じ期間の組み合わせで、SMA同士のクロスとEMA同士のクロスを数えました。

時間足組み合わせSMAのクロス回数EMAのクロス回数
15分足10 / 201,402回1,053回
15分足20 / 50524回470回
1時間足10 / 20358回264回
1時間足25 / 7599回75回
4時間足10 / 2087回75回
4時間足50 / 20014回8回

(ドル円2025年)

速いはずのEMAのほうが、クロスは少なくなります。 36区分のうちSMAのほうが多かったのが31区分、EMAのほうが多かったのが3区分、同数が2区分でした。理由は次の節で書きます。

3つ目は、どちらのクロスが先に成立するかです。同じ向きのクロス同士を、距離の近いペアから順に突き合わせて数えました。

時間足組み合わせEMAが先だった割合差の中央値
15分足10 / 2051.78%1本早い
15分足50 / 20066.4%3本早い
1時間足5 / 2049.02%差なし
1時間足50 / 20070%6.5本早い
4時間足12 / 2550.79%1本早い
4時間足20 / 5076.47%4本早い

(ドル円2025年)

36区分の全体では、EMAが先だった割合は**41.36%から76.47%**でした。半分を超えたのは26区分です。長い期間の組み合わせほどEMAが先行しますが、10と20のような短い組み合わせでは、EMAが先になるかSMAが先になるかは、ほぼコイン投げです。

「EMAのほうが早くサインが出る」は、短期の組み合わせでは成立しませんでした。 成立するのは50と200のような長い2本のときで、6区分中5区分が中央値3〜7本ぶん早く、残る1区分(4時間足の2025年、EMA側のクロスが8回)は0.5本遅いという結果です。

単純移動平均だけが、価格と反対に曲がる

クロス回数の差には、はっきりした理由があります。SMAの1本あたりの動きは、次の式そのものです。

今日のSMA − 前日のSMA =(今日の終値 − n本前の終値)÷ n

これは近似ではなく等式です。15分足・1時間足・4時間足の期間10・20・50・200の12区分で、実際の線と突き合わせたところ、最大のずれは0.0000000000037pips未満でした。丸め誤差だけです。

この式が意味するのは、SMAが上を向くか下を向くかは、今日の終値と「n本前の終値」の比較で決まるということです。n本前の終値は、チャートの上でどこにも表示されていません。窓から抜け落ちる足が、今日の線の向きを半分決めています。

EMAの1本あたりの動きは違います。

今日のEMA − 前日のEMA = k ×(今日の終値 − 前日のEMA)  k = 2 ÷(期間 + 1)

こちらも等式で、同じ12区分で最大のずれは0.0000000000037pips未満でした。右辺の括弧の中は「今日の終値が線の上にあるか下にあるか」そのものです。つまり、EMAは終値が線より上にあれば必ず上を向き、下にあれば必ず下を向きます。

この違いは数えられます。「線が下を向いたのに、終値は線より上にあった」という足がどれだけあったかを測りました。

時間足期間判定した足SMAが価格と反対に曲がった足割合EMAで同じことが起きた足
15分足2024,903本4,007本16.09%0本
15分足20024,903本4,488本18.02%0本
1時間足206,226本992本15.93%0本
1時間足2006,226本1,296本20.82%0本
4時間足201,610本262本16.27%0本
4時間足501,610本345本21.43%0本

(ドル円2025年)

42区分すべてで、EMAは0本でした。 定義からそうなるので、他の年でも他の通貨ペアでも0本になります。SMAのほうは10.95%から21.43%で、おおむね6本に1本の頻度です。

この「n本前の足が抜けたせいで線が曲がる」動きが、SMA同士のクロスを増やしています。速い線と遅い線が、それぞれ別のタイミングで別の理由で曲がるので、交差する機会が増えるという形です。

ただし、これが有利か不利かは別の話です。ここから先が実際の売買結果になります。

なお、線が向きを変える回数そのものはEMAのほうが多くなります。42区分中41区分でEMAのほうが多く、15分足の期間5ではSMAが21.2%、EMAが26.82%の足で向きが変わりました。線の向きが変わる回数はEMAのほうが多いのに、2本のクロス回数はSMAのほうが多い。 別々のものを測っているので、両方とも成立します。

指数移動平均は、チャートを開いた本数で線が変わる

EMAには、SMAにない不安定さがあります。前日のEMAから今日のEMAを作る計算なので、いちばん最初の1本をどこから始めたかの影響が、いつまでも残ります。

始点をずらした2本のEMAの差が、1本進むごとにどれだけ縮むかを測りました。

期間1本あたりの縮小率(期間−1)÷(期間+1)半分になるまで10分の1まで100分の1までSMAが完全一致するまで
100.8181820.8181823.5本12本23本9本
200.9047620.9047626.9本24本47本19本
500.9607840.96078417.3本58本116本49本
2000.990050.9900569.3本231本461本199本

縮小率は理論値とぴったり一致します。そして、ゼロにはなりません。 SMAのほうは期間ぶんの本数が過ぎた時点で完全に一致し、それ以降は差が消えます。

実務的にどれくらいの大きさなのかを、実際のドル円で測りました。2025年1月1日の時点で、その足のEMA(200)が、読み込んだ過去データの長さによってどれだけ違うかです。

時間足読み込んだ本数EMA(200)の差0.1pips未満になるまでSMA(200)の差
15分足200本7.705pips435本0
15分足1,000本0.001pipsすぐ0
1時間足200本49.083pips620本0
1時間足600本0.380pips134本0
1時間足1,000本0.008pipsすぐ0
4時間足200本47.173pips616本0
4時間足1,000本0.011pipsすぐ0

1時間足でEMA(200)を、ちょうど200本ぶんのデータから描くと、十分な履歴から描いた線と49.083pips違います。 一致に近づくまで620本、つまり1か月ぶん以上かかります。SMA(200)は最初の1本目から完全に一致しています。

実用上の意味は2つあります。ひとつは、長い期間のEMAを使うなら、期間の3倍から5倍の履歴を読み込んでおくこと。1時間足の200なら1,000本で差は0.008pipsまで落ちます。もうひとつは、別のツールで同じEMAを引いて数字が合わなくても、必ずしもどちらかが間違っているわけではないということです。始点が違えば線も違います。

この性質はEMAだけのものではなく、前の値から次の値を作る計算をしている指標に共通します。平均足の始値も同じ形で、こちらは1本ごとに差がちょうど半分になります。

チャートに表示する方法と、設定画面の項目

移動平均はどのプラットフォームにも標準で入っています。違うのは、選べる計算方法の種類と、既定値です。

環境手順選べる種類
MT4 / MT5ナビゲータの指標一覧から Moving Average をチャートにドラッグする単純・指数・平滑・線形加重の4つ
TradingViewインジケーター検索から Moving Average を追加する単純・指数など(スクリプトによる)
ブラウザ(Formiq)インジケーター設定の MA を追加する。複数本を並べられる単純・指数・加重・平滑・ハルの5つ

線はローソク足に重なって描かれます。下の別枠には出ません。設定画面に並ぶ項目は次の4つです。

項目既定値何が変わるか
期間20ならす本数。増やすほど価格から離れ、向きが変わりにくくなる
種類SMA(単純)重みの配り方。この記事が測っているのはここ
線ごとに自動2本以上引くとき、速い側と遅い側を見分けるため
線の太さ1表示のみ。計算には影響しない

2本引いてクロスを売買ルールにする場合、バックテストの条件では次の4つを指定します。短期と長期で別々の種類を選べます(この記事の後半で、混ぜたときに何が起きるかを測っています)。

項目意味
トリガー「クロス」か「価格と移動平均の位置関係」か
短期の期間・種類速いほうの線
長期の期間・種類遅いほうの線

いちばん一般的な使い方は、短い線が長い線を上に抜けたら買い、下に抜けたら売る、というものです。ゴールデンクロスとデッドクロスの名前で呼ばれます。この記事の数字は、すべてこのルールで測っています。

つまみとして意味があるのは期間と種類の2つです。そして期間のほうが先に決まります。 期間の選び方そのものは移動平均線クロスの設定を280通り検証した記事で扱っているので、ここでは期間を固定したまま種類だけを動かします。

検証の条件

数字を見る前に、何をどう測ったかを書いておきます。この表と同じ設定を入れれば、同じ結果が出ます。

項目
通貨ペア米ドル/円
期間2025-01-01 〜 2025-12-31(比較用に2024年、および2025年の前半・後半)
時間足15分足 / 1時間足 / 4時間足
検証本数2025年で15分足24,903本、1時間足6,226本、4時間足1,610本
買い短期の移動平均が長期を上抜けた足の終値
売り短期が長期を下抜けた足の終値
決済反対側のクロス。同じ足の終値でそのまま反対方向へ建て直す(ドテン)。損切り・利確・時間決済は使わない
スプレッド0.3pips(スリッページ0、0.1ロット)。決済と新規の両方に掛かる
試した組み合わせ短期8種(5・8・10・12・15・20・25・50)× 長期8種(20・25・30・40・50・75・100・200)のうち短期が長期より短い56通り。これを単純・指数の2種類で回して1対1で比較。時間足3つ × 区分4つで672通り
対照群期間を1本ずつ動かした連続の梯子(短期5〜30・長期50固定と、短期10固定・長期20〜60)を両方の種類で。780組
測定Formiqのバックテスト機能で実行し、1トレードずつの約定価格からpipsを再集計

短期と長期には同じ計算方法を使っています。片方だけ変えた場合は後の「短期と長期で種類を変えると何が起きるか」で別に測りました。

損切りを置かず反対クロスまで持つのは、種類の違い以外を混ぜないためです。損切りを付けた場合は「フィルターと損切り利確」で別に測っています。

672通りの総当たりは、ほぼ引き分けだった

同じ期間・同じ時間足のまま種類だけ入れ替えた結果です。冒頭の図がこの表です。

時間足区分EMAが勝った数EMAの平均損益SMAの平均損益差の中央値最悪の差最良の差
15分足2025年29 / 56+1,134.4+1,064.1+16.3−1,396.5+1,767.2
15分足2024年26 / 56+1,529.4+1,632.0−127.3−2,201.6+1,457.7
15分足2025年前半31 / 56+213.5+76.8+92.3−1,035.4+1,549.7
15分足2025年後半20 / 56+903.9+978.1−280.4−1,160.1+1,934.7
1時間足2025年26 / 56+76.7+62.9−142.4−1,337.9+2,121.2
1時間足2024年32 / 56+1,503.2+1,198.7+241.1−1,761.6+3,542.2
1時間足2025年前半39 / 56−46.9−265.1+203.1−651.9+1,705.4
1時間足2025年後半15 / 56+179.9+363.8−218.9−1,055.2+1,465.6
4時間足2025年22 / 56−1,410.4−1,162.9−195.8−3,096.9+1,807.8
4時間足2024年35 / 56+2,429.9+1,965.0+284.6−1,114.5+4,517.7
4時間足2025年前半27 / 56−214.7−189.3−60.7−1,573.9+1,809.5
4時間足2025年後半16 / 56−1,075.0−857.3−187.4−1,624.5+598.1

(数字はpips)

12区分すべてを合わせて、EMAが勝ったのは672通り中318通り、47.32%です。 完全に同じ損益になった組み合わせは1つもありませんでした。

区分ごとに見ると、1時間足の2025年前半は39/56でEMA寄り、同じ1時間足の2025年後半は15/56でSMA寄りです。同じ時間足・同じ56通りで、半年をまたぐと勝つ側が入れ替わっています。

「2年とも黒字だった組み合わせ」という別の見方でも並べておきます。

時間足種類2025年に黒字2024年に黒字両方の年で黒字2025年の中央値2024年の中央値
15分足SMA51 / 5653 / 5648 / 56+1,004.1+1,650.5
15分足EMA52 / 5656 / 5652 / 56+1,133.7+1,516.4
1時間足SMA35 / 5644 / 5628 / 56+371.6+1,201.0
1時間足EMA34 / 5656 / 5634 / 56+395.4+1,348.0
4時間足SMA3 / 5653 / 562 / 56−1,224.6+2,129.6
4時間足EMA2 / 5656 / 562 / 56−1,542.7+2,456.2

この見方だとEMAがわずかに多く残ります(15分足52対48、1時間足34対28、4時間足は2対2)。ただし1組ごとの勝敗では引き分けなので、「EMAのほうが黒字の設定が多い」と「EMAのほうが損益が良い設定が多い」は同時には成立しません。 前者は成立し、後者は成立しないという結果です。

去年勝ったほうを選ぶと、今年はどうなるか

このシリーズで毎回いちばん実用に近い部分です。それぞれの期間の組み合わせについて、2024年に勝った種類を選び、それが2025年にも勝ったかを数えました。

時間足2024年にEMAが勝った数2025年にEMAが勝った数2年とも同じ側が勝った数一致率2025年の前半と後半で一致
15分足26 / 5629 / 5619 / 5633.93%25 / 56
1時間足32 / 5626 / 5626 / 5646.43%30 / 56
4時間足35 / 5622 / 5625 / 5644.64%25 / 56

15分足では33.93%です。コイン投げの50%を下回っています。 1時間足と4時間足も50%に届きません。半年で切っても25/56から30/56で、同じ範囲です。

よく見かける組み合わせで具体的に見ると、こうなります。

組み合わせ時間足SMA 2025年EMA 2025年SMA 2024年EMA 2024年2年ともEMAが上
5 / 201時間足−484.9+1,636.3+3,744.7+2,293.3いいえ
10 / 2015分足+1,015.0+2,052.3+1,600.9+1,183.0いいえ
10 / 204時間足−1,336.2−664.6−1,245.7+3,272.0はい
12 / 2515分足+2,572.9+1,436.6+1,894.7+2,102.1いいえ
20 / 501時間足−220.5+720.1−34.6+944.5はい
25 / 7515分足−1,023.1+691.3+3,613.7+2,753.1いいえ
50 / 2001時間足−1,340.4−943.0+2,435.4+1,541.5いいえ

(数字はpips。全18通りのうち代表7つ)

18通り(6組み合わせ × 3時間足)のうち、EMAが2025年に上回ったのが11通り、2024年に上回ったのが9通り、両方の年で上回ったのは3通りでした。

15分足の10と20は、2025年にEMAが1,000pips以上勝ち、2024年にはSMAが400pips以上勝っています。同じ設定・同じ通貨ペアで、年が変わると符号が反対になりました。

期間を1本ずらすのと、どちらが大きい変更か

ここがこの検証の核です。「EMAが勝ったのは47.32%」という結果だけを見ると、種類の選択には意味がないように読めます。ですが、それはそもそも種類を変えても結果が動かない場合にも同じ数字になります。区別が必要です。

そこで、期間を1本ずつ動かした連続の梯子を組みました。短期を5から30まで1ずつ(長期は50に固定)、長期を20から60まで1ずつ(短期は10に固定)。各段で「種類を入れ替えたときに動いた損益」と「期間を1本ずらしたときに動いた損益」を並べます。

004004008008001200120016001600期間を1本ずらしたときに動いた損益(pips)SMAをEMAにしたときに動いた損益
1組の設定(全780組)対角線=どちらも同じ大きさ対角線より上=種類を変えたほうが大きく動いた(593組)
種類を変えるほうが、期間を1本ずらすより大きく動きます。どちらへ動くかは、この図の外の話です。
時間足区分梯子種類の入れ替え(中央値)期間1本(中央値)種類のほうが大きかった段
15分足2025年短期5〜30317.0pips275.5pips15 / 25
15分足2025年長期20〜60322.6pips173.7pips26 / 40
1時間足2025年短期5〜30270.6pips224.1pips16 / 25
1時間足2025年長期20〜60601.0pips146.9pips35 / 40
4時間足2025年短期5〜30364.7pips229.3pips14 / 25
4時間足2025年長期20〜60374.9pips122.9pips34 / 40

(2025年ぶんの6行。全24区分の集計は下)

24区分780段の全体では、種類の入れ替えのほうが大きく動いた段が593段、76.03%でした。 中央値は種類が350.7pips、期間1本が154.2pipsです。

もう少し直感的な形にするため、「その段で種類を入れ替えたのと同じだけ損益を動かすには、期間を何本ずらす必要があるか」も数えました。中央値は2本です。1本で足りた段が804段中268段、5本以上必要だった段が208段、20本ずらしても届かなかった段が70段ありました。

まとめるとこうなります。SMAをEMAに替えることは、期間を2本ずらすくらいの大きさの変更です。小さくはありません。ただし、どちらへ動くかは事前に決まりません。

これはフィボナッチ・リトレースメントの検証で使ったのと同じ考え方です。候補が2つしかないとき、片方が勝つ回数を数えるだけでは何も分かりません。隣に対照群を置いて、初めて「勝ち負けに意味があるか」が判定できます。

よく見かける組み合わせでの実測

種類ごとの取引回数と勝率を、代表的な設定で並べます。

組み合わせ時間足SMAの回数EMAの回数SMAの勝率EMAの勝率
5 / 2015分足1,616回1,513回33.11%28.42%
10 / 2015分足1,402回1,053回37.52%29.44%
12 / 2515分足1,106回849回37.25%30.04%
10 / 201時間足358回264回39.11%32.58%
12 / 251時間足274回204回41.97%36.27%
25 / 751時間足99回75回44.44%42.67%
50 / 2004時間足14回8回50.00%37.50%

(ドル円2025年)

672通り全体では、EMAのほうが取引回数が少なかったのが405通り、勝率が低かったのが561通りです。代表18通りに絞ると、勝率は18通り全部でEMAのほうが低くなりました。

それでも損益が引き分けになるのは、EMAの1回あたりの利益がSMAより大きいからです。15分足の10と20では、SMAが1,402回で+1,015.0pips(1回あたり+0.72pips)、EMAが1,053回で+2,052.3pips(1回あたり+1.95pips)でした。

勝率で種類を選ぶと、SMAが選ばれます。損益で選ぶと引き分けになります。 勝率と損益が逆を向く形は、このシリーズの他の指標でも繰り返し出ています(ウィリアムズ%Rは勝率55〜79%で損益がマイナスでした)。

短期と長期で種類を変えると何が起きるか

短期をEMA、長期をSMAにするような使い方も見かけるので、6つの組み合わせ × 4通りの掛け合わせを2年ぶん、計36区分で回しました。

時間足区分組み合わせ両方SMA両方EMA短期EMA・長期SMA短期SMA・長期EMA
15分足2025年10 / 20+1,015.0+2,052.3+922.3+1,549.2
15分足2025年20 / 50+1,774.9+1,108.3+2,139.3+149.2
1時間足2025年12 / 25+958.0+970.9+1,431.9+917.7
1時間足2025年25 / 75−56.8+708.9+995.9−270.2
1時間足2024年12 / 25+1,882.8+440.6+2,169.5−75.8
4時間足2024年10 / 20−1,245.7+3,272.0+231.8+2,692.6

(数字はpips。36区分のうち代表6つ)

4通りの掛け合わせが全部同じ符号だった区分は36区分中21区分、4通りのあいだの幅は中央値で1,399.7pips、最大で4,517.7pipsでした。混ぜると結果は動きます。

ただし、移動平均線クロスの記事で見つかった「長期側に速い種類を置くと2本の役割が入れ替わる」という現象は、SMAとEMAのあいだでは起きません。 EMAは同じ期間のSMAの0.85倍の距離しか縮めないので、期間が2倍離れていれば追いつけないからです。

時間足組み合わせ期間の比SMA(短期側)の距離EMA(長期側)の距離長期側のほうが価格に近いか
1時間足10 / 202.0倍22.11pips28.46pipsいいえ
1時間足20 / 502.5倍33.55pips46.68pipsいいえ
1時間足50 / 2004.0倍55.10pips85.62pipsいいえ

(ドル円2025年)

代表18通り(6組み合わせ × 3時間足)すべてで、長期側のEMAは短期側のSMAより遠いままでした。役割が入れ替わるのは、期間の比が1.3倍から1.45倍まで近づいたときです(短期をSMA 20に固定して長期を1本ずつ伸ばすと、15分足と1時間足は1.3倍、4時間足は1.45倍が境目でした)。20と25のような近い組み合わせを混ぜて使う場合だけ、確認する意味があります。

勝率が低いほうが損益は良い、という並び

ここまでで、種類ごとの性質は次のように整理できます。

単純移動平均(SMA)指数移動平均(EMA)
重心(n−1)÷2 本前(n−1)÷2 本前(同じ)
直近の足の重み1÷n約2÷n
期間より前を読むか読まない読む(重みの13.5%)
終値からの平均距離基準0.81〜0.90倍
価格と反対に曲がるか10.95〜21.43%の足で曲がる起こらない
起動時の履歴に依存するかしない(n本で一致)する(差が半分になるのは期間の約0.35倍の本数)
取引回数多い(672通り中405通りで)少ない
勝率高い(672通り中561通りで)低い
損益引き分け(318通り対354通り)引き分け

勝率が高いほうと損益が良いほうが一致していません。 SMAは672通り中561通りで勝率が高いのに、損益では負け越していません(318対354)。回数が多く、1回あたりが小さいという形です。

これが後で効いてくるのは、コストの話です。

フィルターと損切り利確

代表2組に、よく紹介される条件を足して測りました。

対象区分条件回数勝率損益1回あたり
15分足 10/20 SMA2025年なし1,402回37.52%+1,015.0+0.72
15分足 10/20 SMA2025年ADX 25以上354回34.75%−271.0−0.77
15分足 10/20 SMA2025年東京時間460回38.91%+309.7+0.67
15分足 10/20 EMA2025年なし1,053回29.44%+2,052.3+1.95
15分足 10/20 EMA2025年ADX 25以上154回25.97%−185.5−1.20
15分足 10/20 EMA2025年東京時間356回31.18%+1,469.8+4.13
1時間足 12/25 SMA2025年なし274回41.97%+958.0+3.50
1時間足 12/25 SMA2025年ADX 25以上80回37.50%−400.4−5.00
1時間足 12/25 EMA2025年なし204回36.27%+970.9+4.76
1時間足 12/25 EMA2025年ADX 25以上41回29.27%−1,050.0−25.61

(損益はpips。2024年ぶんを含む24通りの一部)

24通りのうち1回あたりが改善したのは11通りです。 ADXフィルターは8通り中2通りしか改善せず、2025年は4通り全部で損益を黒字から赤字にしています。東京時間フィルターは8通り中4通りで改善しました。

フィルターの効き方が種類によって変わる、という結果は出ませんでした。 ADXが効かないのはSMAでもEMAでも同じで、効かない方向も同じです。

損切りと利確も足しました。

対象区分決済ルール回数損益
15分足 10/20 SMA2025年反対クロスのみ1,402回+1,015.0
15分足 10/20 SMA2025年損切り50 / 利確1001,372回+510.8
15分足 10/20 EMA2025年反対クロスのみ1,053回+2,052.3
15分足 10/20 EMA2025年損切り50 / 利確1001,025回+1,439.0
1時間足 12/25 SMA2025年反対クロスのみ274回+958.0
1時間足 12/25 SMA2025年24本で時間決済268回+1,808.1
1時間足 12/25 EMA2025年反対クロスのみ204回+970.9
1時間足 12/25 EMA2025年損切り50 / 利確100185回+1,772.6

(損益はpips。全32通りの一部)

32通りのうち、反対クロスまで持つ形を上回ったのは6通りです。 SMAで3通り、EMAで3通りでした。ここでも種類による差は出ていません。

スプレッドと、損益分岐点の差

種類の選択が実務ではっきり効くのは、ここだけでした。スプレッドを変えて2025年を回し直します。

スプレッド15分足 10/20 SMA(1,402回)15分足 10/20 EMA(1,053回)1時間足 12/25 SMA(274回)1時間足 12/25 EMA(204回)
0.0pips+1,435.6+2,368.2+1,040.1+1,032.1
0.3pips+1,015.0+2,052.3+958.0+970.9
0.6pips+594.4+1,736.4+875.8+909.7
1.0pips+33.6+1,315.2+766.2+828.1
1.5pips−667.4+788.7+629.2+726.1
2.0pips−1,368.4+262.2+492.2+624.1

0から2.0pipsに動かしたときに失う額は、15分足のSMAで2,804.0pips。これは1,402回 × 2.0pipsとぴったり一致します。EMAは2,106.0pips(1,053回 × 2.0)、1時間足のSMAは547.9pips(274回 × 2.0の548.0に対して丸めぶんの差)、EMAは408.0pips(204回 × 2.0)でした。コスト=取引回数×スプレッドは、種類を変えても成立します。

損益がゼロになるスプレッドを計算するとこうなります。

対象回数スプレッド0での損益損益分岐点
15分足 10/20 SMA1,402回+1,435.6pips1.02pips
15分足 10/20 EMA1,053回+2,368.2pips2.25pips
1時間足 12/25 SMA274回+1,040.1pips3.80pips
1時間足 12/25 EMA204回+970.9pips5.06pips

15分足の10と20は、SMAなら1.02pipsで損益がゼロ、EMAなら2.25pipsまで持ちます。 回数が3割少ないぶん、スプレッドに対する余裕が倍以上あります。

この差は損益の期待値ではなく、期待値のばらつきに対する耐性です。損益そのものは引き分けでも、スプレッドが広がる時間帯に取引が集中したり、口座のスプレッドが想定より広かったりしたときに、先に赤字になるのはSMA側です。672通り中405通りでEMAのほうが回数が少ないので、この向きはある程度一般的です。

この検証で言えること

実測から取り出せた、複数の区分で同じ方向を向いていたものだけを並べます。

  1. 損益で優劣は付きません。 672通り中318通り(47.32%)でEMAが上回りました。12区分に分けても15/56から39/56の範囲で、どの区分も引き分け付近です
  2. 重心は同じです。 期間nならSMAもEMAも (n−1)÷2 本前が重心で、7つの期間すべてで一致しました。「EMAのほうが新しい情報を見ている」は成立しません。違うのは配り方で、直近の足を約2倍重く見るかわりに、期間の外側にも13.5%の重みを残します
  3. SMAだけが、価格と反対に曲がります。 10.95%から21.43%の足で「終値は線より上なのに線は下を向く」が起きます。EMAでは42区分すべてで0本でした。SMA同士のクロスが多くなる(36区分中31区分)のはこの性質のためです
  4. EMAだけが、起動時の履歴に依存します。 1時間足のEMA(200)を200本のデータから描くと、十分な履歴から描いた線と49.083pips違い、一致に近づくまで620本かかります。長い期間のEMAを使うなら期間の5倍の履歴を読み込んでください
  5. 前年に勝った側を選ぶことに、根拠は見つかりませんでした。 2年で勝つ側が一致したのは15分足で33.93%、1時間足で46.43%、4時間足で44.64%。15分足はコイン投げより下です

実務的な差として残ったのは、取引回数とスプレッド耐性だけでした。EMAのほうが回数が少なく(672通り中405通り)、損益分岐点のスプレッドが広くなります。損益で選べない以上、自分の口座のスプレッドと、どれだけ売買したいかで選ぶのが、この検証から言える唯一の選び方です。

期間の選び方のほうが先に決まる問題なので、移動平均線クロスの設定を280通り検証した記事を先に読んでもらうと、この記事の位置づけが分かりやすいと思います。プログラミングなしで条件を組んで検証するなら、この記事の表と同じことを自分の通貨ペア・自分の期間で回して確かめられます。

この検証の限界

  • 通貨ペアは米ドル/円のみ、期間は2024年と2025年の2年だけです。他の通貨ペアや他の年で同じ傾向になる保証はありません
  • 2つの年の性格が大きく違います。 2024年は+1,632pipsの上昇(値幅2,237pips)、2025年は−56pipsで元の位置に戻る動き(値幅1,900pips)でした。移動平均クロスはトレンドを取りにいく仕組みなので、この違いが結果の大部分を作っています
  • 比べたのは単純と指数の2種類だけです。加重(WMA)・平滑(SMMA)・ハル(HMA)を含めた5種類の比較は移動平均線クロスの記事にあります
  • 重心・重み・向きの計算は数式から出る性質なので通貨ペアや年に依存しませんが、終値からの距離やクロス回数はドル円の2年ぶんの実測です
  • エントリーも決済も足の終値で行っています。実際の約定はここからずれます
  • スプレッドは全期間0.3pips固定として計算しています。実際のスプレッドは時間帯と指標発表で変動します
  • 起動時の履歴の影響は、2025年1月1日の1点で測っています。別の日を選べば差の大きさは変わります(縮小率のほうは日付に依存しません)
  • 時間帯によって値動きの大きさは変わります。時間フィルターの結果はその影響を受けています

よくある質問

移動平均線はSMAとEMAのどちらを使うべきですか?
ドル円で、同じ期間・同じ時間足のまま種類だけを入れ替えた672通りのうち、EMAの損益が上回ったのは318通り(47.32%)でした。時間足と期間の区分を12に割っても、EMAが勝った数は56通り中15〜39で、どの区分も引き分け付近です。この検証の範囲では、どちらかが優れているという結果は出ませんでした。
EMAはSMAより反応が速いのですか?
重みの重心は同じです。期間20ならSMAもEMAも9.5本前が重心で、これはどの期間でも一致します。違うのは重みの配り方で、EMAは直近の足をSMAの1.905倍重く見て、そのぶん20本より前も読み続けます。終値からの平均距離はEMAのほうが小さく、42区分すべてでSMAの0.81〜0.90倍でした。クロスが先に成立した割合は36区分で41.36〜76.47%です。
SMAとEMAで結果はどのくらい変わりますか?
同じ期間のままSMAをEMAに替えたときに動いた損益の中央値は491.1pipsでした。期間を1本ずらしたときの動きと比べると、780組中593組(76.03%)で種類の入れ替えのほうが大きく動いています。期間に直すと中央値で2本ぶんです。小さな違いではありませんが、どちらへ動くかは事前に決まりません。
去年EMAが良かった組み合わせは、今年もEMAが良いですか?
2024年と2025年で勝った側が一致したのは、15分足で56通り中19通り(33.93%)、1時間足で26通り、4時間足で25通りでした。15分足はコイン投げより下です。前年の結果を見て種類を決めることには、この検証の範囲では根拠が見つかりませんでした。
SMAとEMAで取引回数や勝率は変わりますか?
EMAのほうが取引回数が少ない組み合わせが672通り中405通り、勝率が低い組み合わせが561通りでした。15分足の10と20では、SMAが年1,402回・勝率37.52%、EMAが1,053回・勝率29.44%です。回数が減るぶんスプレッドに強く、損益がゼロになるスプレッドはSMAが1.02pips、EMAが2.25pipsでした。

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